江戸小噺
Malo in consilio feminae vincunt viros.
しかった跡 |
| 辻番小屋の脇で、小僧が立小便をした。 音を聞きつけて飛び出してきた辻番が、 「馬鹿め! そんな所に小便をするやつがあるか!」 と怒鳴ると、 「どこでしようかと探していたら、ちょうどここに小便をした跡があったので・・・」 と言い訳をするので、辻番、声を荒げて、 「馬鹿め! そこはたった今、しかった跡だ」 |
| 辻番は武家屋敷の警備のために辻ごとに設けた番所、及びその番人のこと。 |
新開(あらばち) |
| 「おれはまだ生娘としたことがない。いまどき、そこらの娘はしゃれ者で、みな虫が付いている。しかし、向こうの娘はあばた面で器量が悪い。まさか、誰も手出しはしてないだろう。あいつをひとつしめてみよう」 と、いろいろなだめすかして呼び出し、すぐに押し倒して一義に及ぶと、案に相違して根元までズブズブ入ってしまった。 驚いた男が、 「お前だけは生娘だと思ったが・・・・」 と言えば、娘、下から、 「はい、みなさん、そうおっしゃいます」 |
| 新開(あらばち)は処女のことで、新鉢とも書く。一義は性交のこと。 誰しも考えることは同じということ。 |
槍で突く |
| 奉公に出ていた娘が、お使いの帰りに家に立ち寄ったので、母親が顔をほころばせ、 「勤めに出てから、四、五十日もたったので、もうすっかり仕事にも慣れただろう。どうじゃ、つらくはないか」 「はい、昼間は楽しく勤めておりますが、夜が・・・・」 と言って、口篭もるので、 「夜が眠たいか」 と聞き返すと、 「旦那様が・・・・」 と言って、また口篭もるので、母親ますます聞きたがり、 「しかりなさるのか」 と聞くと、 「しかるじゃないが、仇のように槍で突いたり、赤子のようにしゃぶったり・・・・」 |
| 江戸時代は現在の中学生くらいになると奉公に出るのが普通だった。下働きの下女に手をつけるのもまたよくあることであった。 |
おでき |
| あけて十五のお姫様、春にはさるれっきとしたお屋敷にお輿入れと決まったが、一番大事なところになにやらおできのようなものができたらしい。 お姫様がたいそうお悩みの様子なので、側付きの女中が、 「とにかくお医者様にお見せください。さすれば安心できましょう」 と勧めても、 「そんな恥ずかしいこと死んでもいやじゃ」 とお聞き入れにならない。 生まれたときからお乳を飲ませた乳母の言うことなら聞くだろうと、 「お医者様が恥ずかしければ、乳母にお見せください」 と申しても、 「いやじゃ、いやじゃ」 困った乳母がハタと思いつき、紙と筆を持ち出して、さらさらとあそこの絵を描いた。ご丁寧にあそこの毛まで描いてある。 「姫様、どのあたりにできましか」 お姫様はちらっとその絵を見て、毛があるのに驚いて、 「わたしにはまだそのようなものはない」 乳母は真面目な顔で、 「これがないと、上か下かわかりません」 |
| 当時としては14、5歳にもなれば子を産むのに問題はなく、お姫様にとっては結婚適齢期といえる。 |
派手な女 |
| 「ちょっと聞いてくれ。たった今、派手な女が通ったよ。まず帯が金襴、下帯が緋縮緬に金糸で立浪。そこに折りよく風が吹いて、雪のような股が見えた」 「そいつはさだめし、器量もよかったろう」 「野暮天め、どうして上を見る暇がある」 |
| 「下帯」は本来は男性のふんどしを指すが、女性用の腰巻もそう呼ぶことがある。 「金襴」は金糸を織り込んだ豪華な布地。「金糸で立浪」は金糸で立浪の刺繍を施した意味。 |
おませ |
| おませな女の子が集まって何して遊ぼうかということになり、 「お君ちゃん、何したい」 「あたい、かくれんぼ」 「お染ちゃんは」 「あたいは芝居ごっこがいいわ」 「お花ちゃんはどうなの」 お花は顔を赤くして、 「そんな恥ずかしいこと言えないわ」 |
親子 |
| 男というものは朝目の覚める前にセガレが起き出すもの。まして若いころならなおさら威勢がよい。 「おいおい、せがれやせがれ」 「なんです、おとっつぁん」 「今朝、おまえが小便をしているところを見たが、なんだなあ、手を添えて小便していたな」 「ええ、それがどうしたんです」 「情けねえなあ、いい若いもんが手を添えなくちゃできねえのかよ。おれの若い自分は前に突き出しただけだ。手なんか使わなかった」 「だっておとっつぁん、手を放したらあごにひっかかるよ」 |
| 今も昔も若い男の朝立ちはすごいもの。 |
半分起きてる |
| お姑さんは新婚の二人が気になってしょうがない。朝になっても起きてこないもので、女中にまだ起きないのかと聞いてみる。 「へえ、まだお休みのようです」 「困ったね。商人は朝が早いもの。もう辰五つにもなって起きないんじゃ、店の者にも示しがつかないよ。寝ているのか起きているのかそっと見てきておくれ」 「へえ、見てきました」 「で、起きてたのかい」 「へえ、半分起きてらっしゃいました」 「半分とはどういうことだね」 「へえ、若旦那さんは上半分が起きていて、若奥さんは下半分が起きてらっしゃいました」 |
| 「辰五つ」は午前8時。江戸の商人は朝が早い。 |
いわれ |
| 「おい、すりこ木やすり鉢にもいわれがあるのか」 「おおさ、あるとも。すりこ木が男でマラに、すり鉢が女でボボにたとえたものさ」 「なるほど、それで、すれば汁が出るのか」 |
| すりこ木は男根を、すり鉢は女陰を象徴するものと思われていた。 |
枕草子 |
| 枕草子を見ながら、通り丁を歩いていくと、突然きざして乙な気分になってきた。ふと見ると、向こうから、江戸見物らしい田舎親爺が娘を連れてやってくる。これさいわいと、無理に娘を押し倒して枕草子を広げ、 「あの手でいこうか、この手でいこうか」 と思案中。娘は慌てて、 「あれあれ、とっ様、とっ様」 と叫ぶを、父親答えて、 「まあ黙っていなさい。書物を見ていなさるからには、悪いことはあるまいて」 |
| 枕草子は、清少納言の有名な「枕草子」ではなく、春画を集めた本のこと。 「きざす」というのはやりたくなること。 「通り丁」は日本橋から京橋へ抜ける道の名前。 |